春の頭痛


コアが甘い。スプーンでカップに残る氷を溶かしながら僕はあの子が来るのを待っていた。売店で買ったココアの味はデパートに流れている演歌と調和していない。デパートの7階は古い。古くて硬い椅子に座って僕はあの子を待つ。今日あの子はどんなお洒落をしてくるんだろう。それを僕はどう受け止めてどう褒めてやろうか。そんなことを考え心を弾ませながらスプーンを回す。回す。
季節は春だ。人々はみんな何か嬉しそうな顔で檸檬(れもん)を齧っている。その果肉から漂ってくる軽やかな酸味と春の陽気が僕をぽかぽかとした気持ちにさせる。デパートの7階には卒業式を終えたばかりの中学生たちの喧騒、僕とその手にあるココアの周りにいる人たちは、一人ずつが少しずつ幸せな顔をしている。あの子が好きな季節は春だったっけな。僕は夏が好きだけど、こんな気持ちになれるなら春も悪くないな。
足音が近づいてくる、エレベーターが7階へ上がってくる音だ。ふと明るい予感がしたので振り返ると笑顔なあの子のスカートが揺れていた。僕も微笑み返す、今日はなんだかいつもより優しい自分になれているような気がする。
「待った?」
とあの子が言った。
僕は
「可愛らしいスカートだね。」
と返してやる、そうして僕たちは二人並んで、デパートを後にした。
飲み残しのココアはゴミ箱に捨てた。ゴミ箱の奥にはがうずくまって死んでいた。